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残置物の処理等に関する委任契約の活用法~高齢者に安心して住まいを提供するために~ 2022年7月号

2023.02.22

賃貸住宅において、賃借人の死亡後に居室内に残された残置物の処理に
煩雑な手続きが必要であること等から、賃貸人が単身高齢者に対して
拒否感を抱く事態が生じます。単身高齢者の居住の安定確保を図る観点
から、国土交通省及び法務省において、残置物を円滑に処理する手法に
ついて検討を行い、2021年6月に死後事務委任契約書のひな形となる
「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しました。
その概要をご紹介致します。

 

☆モデル契約条項の目的
賃借人の死亡後、賃借権と居室内に残された家財(残置物)の所有権は、
その相続人に相続されるため、相続人の所在や有無がわからない場合、
賃貸借契約の解除や残置物の処理が困難になる事があり、特に単身高齢
者に対して賃貸人が不安感を抱き、じゅうたくを貸すのを躊躇すること
につながっています。
国土交通省としては、これまでも「大家のための単身入居者も受け入れ
ガイド」を作成し、単身者の受け入れに当たっての留意点や各種制度の
紹介を進めていましたが、このモデル契約条項では、より実務で使いや
すい残置物処理の方法をお示しすることで、このような賃貸人の不安感
を払拭するこを目的にしています。このような観点から、本モデル契約
条項は60歳以上の単身高齢者が賃貸住宅に入居する際に、受任者(推
定相続人等)と残置物の処理等を内容とする事務委任契約を締結する場
面での利用を想定しております。
本モデル契約条項は、破棄してはいけない家財リストを作成するなで、
財産の管理に負担が生じる面があるため、残置物リストに対する不安感
が生じにくい場面で使用した場合、民法や消費者契約法に違反して無効
となる可能性があることに注意して下さい。

 

☆モデル契約条項のポイント
このモデル契約条項は大きく3つのパートに分かれています。
1つ目は、賃借人が賃貸借契約の存続中に死亡した場合、賃貸借契約を
終了させるための代理権を受任者に授与する委任契約、2つめは、賃貸
借契約も終了後に残置物を住宅から搬出して廃棄する指定先へ送付する
などの事務を委託する準委託契約、3つめは、賃貸借契約にこれらの委
託契約や準委託契約に関連する契約条項を設けるものとなっています。
1つめと2つめは、賃貸借契約とは別に、委任者と受任者との間で締結
する委任契約の内容となっており、同一の受任者に委任する場合には1
通の契約書として差し支えありません。賃借権の解除や残置物の廃棄は
相続人の利害に影響するため、受任者は賃借人の推定相続人とすること
が望ましいですが、推定相続人を受任者とすることが困難な場合は、
第三者性を有する居住支援法人や管理業者が受任者になることも考えら
れます。賃貸人は、賃借人(の相続人)と利害が対立することがあり得
るため、受任者とすることは避けるべきです。

 

☆まとめ
高齢化社会が進む中で、未婚や離婚率の増加・核家族化と単身高齢者が
増えていく世の中で、空室を少しでも減らし賃貸物件の安定運用につな
げるには今後『単身高齢者の入居・受入』が一つのキーポイントとなっ
てくると思います。
その際に今回ご紹介したモデル条項を活用することで、リスク回避にな
ったり、他の物件との差別化につながる可能性があります。
国土交通省HPでリーフレットやQ&Aなど詳しい内容が公開されてい
ます。『国土交通省 残置物』で検索してみて下さい。