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 賃借人が原状回復費用を払ったにもかかわらず、賃貸人が原状回復工事を実施しなかった場合の不当利得返還請求の可否  2021年10月号

2022.03.14

事案 
 
Xは、Yから事業用建物を賃借していました。賃貸借契約書には、 契約終了後

に賃借人の負担でスケルトン状態に原状回復すべきとが定められていました。 
建物退去時、Xは、Yと協議して原状回復工事費用をYに支払う形で建物を現

状のまま明け渡しましたが、その後、Yが工事を せずに建物を第三者に売却

したことが判明したことから、 Yに対して工事費用につき不当利得として返

還を請求しました。 
 
 
 
判決 
 
Xは、Yと協議し、自らの原状回復義務の履行に代えて工事費用を支払うこと

により原状回復義務を消滅させることをYと合意したのであるから、かかる

合意に基づく工事費の支払いには法律上の原因があり、不当利得には当たら

ないとして、Xの請求を棄却しました。 
 
 
留意点 
 
賃借人の立場としては、原状回復費用を支払ったにもかかわらず、賃貸人が

原状回復工事を実施しないのであれば、費用を返還してもらいたいと考える

のも自然であるように思います。 
しかし、本来は賃借人は原状回復義務を負っているのですから、これが直ち

に免除される理由もなく、少なくとも裁判所は、原状回復費用の支払いやそ

の保証金からの控除について一旦合意が成立した以上は、その後に賃貸人が

原状回復工事を実施しなかったとしても、賃借人に費用を返還すべき理由は

ないと考えています(東京地裁平成29年12月8日判決、東京地裁令和元年10

月1日判決も同様の判決を相次いで言い渡しています)。 
賃借人の不満は感情的なものにすぎず、もしもろれを回避したいのであれば、

自ら原状回復工事を実施するか、賃貸人が工事を実施しなかった場合には費

用を返還する旨の覚書を交わしておくべきだったということになります。 

 

(東京地裁 平成29年12月8日 判決)