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建物賃借人が利用目的を達することができなかったことについて 2019年5月号

2019.12.17

建物賃借人が利用目的を達することができなかったことについて

   ~ 媒介会社に注意義務違反が認められた事例 ~ 

 

ケース

平成25年4月頃、Y1は都内の所有店舗について宅建事業者Y2にテナントあっせん

を依頼しました。
一方介護事業者Xは、宅建事業者Y3に介護施設向け物件紹介を依頼していました。
同年7月、Y2とY3の媒介により、Y1を賃貸人、 Xを賃借人とする本件建物の賃貸

借契約締結、 引渡がなされ、Xはその直後から内装工事に着手しました。翌月、

Xは所轄行政庁より、用途変更申請が必要になる旨の説明を受けました。


同年11月、Xは工事を完了させ、Y3を通じてY2に建物の検査済証の提出を要請し

たところ、検査済証はない旨回答を受けました。翌月、Xは建築士に調査を依頼。

介護施設としての使用には用途変更申請が必要だが、検査済証がないためこれが

できず、   その対応として、建築基準法上の調査報告制度の利用は考えられるもの

の、建物現況に同法等に不適合な点があると指摘されました。XはY1に照会した

ところ、介護施設として使用可能にする 義務はないと回答を受けました。
平成26年3月、Xは、Y1・Y2・Y3に対し、内装工事費用・支払済賃料・仲介手

数料逸失利益として1億円余の支払いを求めて本訴を提起、同年10月に本件建物を

明渡しました。         

 

解 説

裁判所は次の通り判示し、Y1に対する請求を棄却、Y2とY3に対する請求を 

一部認容しました。
                                                          
(1)Y3は、Xの使用目的が介護施設であったことを認識し、Y2から他に同じ

使用目的での照会があった際は、検査済証がないため全て貸借を見送っていた旨

を聴取していたが、Xにこれを伝えなかった。宅建事業者であれば、使用目的に
知識で、仮にこれを欠いていたとしても、Y2からの情報で介護施設としての使用  

に疑問を持ち、調査する義務を負っていた。Y2は、Y3に検査済証がないことを
伝えたが、これを聞いたXがあえて貸借を希望する事に疑問を持たず、賃貸借 
契約締結の際にもXに直接これを伝えることもできた。


(2)XとY1の間に、Y1が用途変更確認を受けられる状態にしておくという合意

は なく、Y1に債務不履行はない。


(3)賠償すべき損害は、Xが本件建物で介護施設を開業し得ると信頼したことで 

支出した費用に限られ、建築士への調査依頼後の支出も同様である。よって、 
Y2とY3の注意義務違反と相当因果関係がる損害は、支払済賃料・仲介手数料・  
内装工事費用等4155万円余となる。ただし、用途変更申請は、着手前に行うべ  
きで、工事完了までそれを放置したXには、損害発生・拡大に過失があり、その
割合は3割とみなすのが相当である。
(東京地裁 平成28年3月10日判決) 

 

宅建業者には、特段の事情がない限り、建物の遵法性を調査する義務まではない

とは言われていますが、 過去の経緯をふまえると今回の結果は容易に想像できた

と思います。 オーナー様は再度検査済証や確認済証等の書類や建築時の図面を

再度確認していただき、特に事業用物件を 所有されている場合には過去にどの

ような事業者様が入居されていたかも合わせて確認される事をおすすめします。

 

また、検査済証や確認済証を紛失してしまった場合、役所の建築審査課や土木

事務所等の所定窓口で『建築台帳記載事項証明書』という書面を交付してもら

えます。この書面には確認済証と検査済証の内容の一部を抜粋した書面で、

確認済証と検査済証の代用とする事が できる場合もあります。

(築年等によって交付できない場合があります。)